おかえりなさい
ファルコンのタラップをせわしなく一段飛ばしながら駆け降りる。最後は二段飛んで着地した。
我ながらガキくさいと思うけれど、あのお子様にはきっとこのくらいの男がちょうどいい。
村の入り口も近づいたところで、駆けてきた足の速度をゆっくり落とす。
会いたいばっかりに飛んできたなんて思われたら恥ずかしいだろう?
やがて、村にほど近い大きなケヤキの下に、ぴょんぴょんと飛び上がる新緑が見えた。
エッジが答えるように手を上げると、リディアもようやく目に留めたのか、高く通る声で叫ぶ。
「おかえりなさい!」
共に暮らせない二人が、いつからか使い出した魔法の言葉。
もとはといえば、エブラーナへ帰らなくてはならないエッジにいたずらっぽくリディアが言った『いってらっしゃい』が始まりだった。
帰りを惜しんで引き延ばすエッジに、そう言ったらたいそう喜んだのだ。それを覚えていたリディアが、次にミストへ来たエッジに言ったのが、おかえりなさい。
あんなに、泣きそうに笑うなんて思わなかったの。
それからのリディアといえば、別れ際にはいってらっしゃい、会いに来てくれた時にはおかえりなさい。
エッジの帰るところは自分のもとなのだとすら思えてくるような甘い目眩に、いつもリディアの胸はやわく締め付けられる。
「ただいま」
エッジはリディアの髪に顔を埋めながら小さく呟いた。
どこまでも優しい声色に、リディアの心がじんわりあたたまる。
好き合うようになってから、エッジは目に見えて優しくなった。優しすぎて、時々辛いくらいに。
リディアは彼の背に回した手をぽんぽん、二回叩くと、体を離した。
そのまま引き締まった指に柔らかな指をそっと絡める。
「お昼の準備、できてるよ!」